英国における進行性卵巣がんの分子標的薬治療は、NHS(注1)で承認が行われており、治療にかかる医療費は抗がん剤基金(Cancer Drugs Fund)により支払われる。
rucaparib(商品名Rubraca)は、化学療法後の維持療法として設計されており、卵巣がん、卵管がん、腹膜がん患者において使用されている。
英国国立医療技術評価機構(NICE)は、この承認が英国の卵巣がん患者約1,350人に利益をもたらす可能性があると述べた。
ニューカッスル大学の腫瘍内科医であるYvette Drew博士は、Cancer Research UKより資金提供を受け、卵巣がんに対するルカパリブの臨床試験を初めて実施した医師で、「ルカパリブは非常に忍容性の高い経口治療薬であり、化学療法による副作用を回避し、QOLを長時間保つことが可能である。また、化学療法後のがんの再燃を有意に遅らせ、その後の化学療法の必要性も遅らせると試験が示しており、この薬が、より広く利用可能になることは素晴らしいニュースである」と述べた。
進行が遅い
ルカパリブは、PARP阻害剤と呼ばれる抗がん剤の一種で、DNAの損傷を修復する働きをもつPARPと呼ばれる分子の活性を阻害することで、がん細胞の修復を妨げ、病気の進行を遅らせる。臨床試験の結果によると、標準治療では再発するまでの期間が5.4ヶ月だったのに対し、ルカパリブは10.8ヶ月と有意に延長することを示唆した。しかし、治験期間が短く、薬物を服用してからどれだけ長く生きることができるかについては不確実性がある。
そこで、英国国立医療技術評価機構(NICE)はルカパリブでの治療法を抗がん剤基金(Cancer Drugs Fund)の支払い対象品目に追加し、患者がルカパリブの恩恵を受けられるようにしながら、臨床試験から長期データを収集することにした。
承認までの経過
ルカパリブについては、前述による治験における長期生存の不確実性と薬剤の費用の問題から、当初承認は拒否された。
NHSの決定を受け、NICEと製薬会社は、より低価格での治療を交渉し、「臨床試験により、ルカパリブが患者の寿命を延ばすのに有意であるとの長期データが示されれば、低価格での提供ができる」と結論付けた。
NICE医療技術評価センターのディレクターであるMeindert Boysen氏は、「製薬会社の積極的な対応が、ルカパリブの承認に繋がった」とし、「この承認により、患者はすぐに治療を受けることができ、全生存期間の有益性についてもより多くのエビデンスを収集できる」と述べた。
なお、抗がん剤基金(Cancer Drugs Fund)の支払い対象品目に掲載されている医薬品は、ウェールズと北アイルランドの患者にも利用可能である。
スコットランドにおける医薬品の決定は、Scottish Medicines Consortiumが別途行う。
Cancer Research UKの最高経営責任者であるMichelle Mitchell氏は、この承認は、ニューカッスル大学に拠点を置くCancer Research UKの科学者による長年の努力の結果であることを付け加えた。
「ルカパリブは、他の治療よりも長く、より少ない副作用でQOLの向上をもたらす薬剤として、再発・進行卵巣がん患者に新たな希望をもたらすだろう」
また、Mitchell氏は、他のがん種の患者に対しても同様の効果があるか検証するための、さらなる試験が進行中であり、「興味を持って結果を待っている」と述べた。
(注1)NHS (National Health Service)
イギリス政府が運営する国民保険サービス。税収などにより賄われており、利用者の支払い能力にかかわらず利用が可能。加入すると医薬品はおおよそ一律約£7(1,000円程度)で、診察、入院、手術などの費用がNHSでカバーされる。(特殊な手術および歯科や眼科医療、事故による怪我は除く)
翻訳:そら
原文:Medical Xpress
https://medicalxpress.com/news/2019-10-advanced-ovarian-cancer-treatment.html
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